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第一部:プロローグ【夢か現実か】 [鬼畜召喚師ランス]


「……ここは、どこだ?」


この物語の主人公、ランス。

彼は意識を取り戻し、周囲を見回すとその光景に絶句した。

辺り一面に広がる建物の残骸……戦争でもあったのだろうか。

残骸の造りも、彼の見たことも無いものだった。

その光景に、ランスは顔を歪めて顎に手を当てる。


「思い出せ、思い出せ……何があったかを……」


彼の職業は、冒険者から成り上がり、今は一国の王。

そうだ、リーザスで王様をしており、世界統一の目前であったではないか。

残すはケイブリスの魔王城だけであり、その戦いに備えていた。


「思い出すんだ……」


残骸の中でランスは胡坐(あぐら)をかき、腕を組んで目を瞑る。

完全な思い出しモードに入っている。

だんだんと思い出してきた、魔王城から数キロ離れた場所で、テントを張っていた。

部隊はランス・健太郎・魔人姉妹・サテラ。

……どの部隊もケイブリスに攻撃する手段を持つ、魔人特化型部隊だ。

そんな部隊が駐屯するテントの中で、ある事をやっていた。


「そうだ、俺とワーグ・リア・マリスで遊んでたんだっけな」


普段マリスは参報として連れて来るものの、リアは来ない。

だが、ケイブリスの体力をギリギリまで削っており、今回が勝負時。

よって「ダーリン、今回はリアも行きた~い!」と言う我侭に、
「まぁ、今回は良いだろう。俺様のカッコイイ所を見ておけ!!」と、
二つ返事でオッケーを出してしまっていた。

リアだけでなく、シィルや美樹なども違うテントで休んでいるはずだ。

だが、"あの時"は暇だ暇だと駄々をこねるリアとワーグ、
そしてリアの傍を離れたくないと言うマリスとトランプ等をしていた。

決戦前にゲームなど緊張感ない事極まりないが、これもランスの性格。

またマリスはリアに逆らえないので寝ることを強要しなかった。


「それでで、遅くなってきて……ワーグが言い出したんだっけな」


――――おにいちゃんたち、あしたはやいんだし、ワーグがねかせてあげようか?


遅い時間まで遊んでいたランスたちにワーグが言った。

その提案を、既に就寝準備は大体終っていたランスたちは飲んだ。

こうして、ワーグに催眠術を任せることにしたのであるが、薄れゆく意識の中……


「あれぇ、どうして……っ? お、おにいちゃんたちの、"たましい"がでちゃった……」

「ぐぅ、ぐぅぐぅ……」

「……ど、どうしよう……」

「むにゃむにゃ、ダーリン……」


……あんな事を言っていた様な気がする。

なんとワーグは、術をかけるのに失敗してしまったのだ。

滅多にないことなのだが、河童の川流れ、猿も木から落ちる、と言う諺がある。

この時点で、ランス・リア・マリスの意識は、遥か別の彼方に飛ばされてしまった。

残っているのは、寝ているようで魂がない、植物状態の肉体だけだ。

ワーグは、その三つの肉体を見下ろしながら、心底申し訳無さそうな表情で嘆いた。


「おにいちゃん……ごめんね、しっぱいしちゃったよ……たぶん、
 おにいちゃんたちが、がんばれば、もどってこれるから……どうにか、ぶじでもどってきてね……」


……


…………


「……って事は、今はワーグの夢の中にいるのか」


辻褄を自分で勝手にあわせたランスは、廃墟をあてもなく歩く。

歩いても歩いても広がる廃墟、だがランスは意外に落ち着いている。

……これが夢であると思い込んでいるからだ。


「それにしても変だな……俺様はなんでこんなヘンテコリンな装備をしてるんだ?」


しかし、ランスは自分の体に疑問を感じる。

服装はリア・シィル・マリスらと共にピクニックに行った時の、寝る前のままだった服装なのだが……

何やら彼の言うよう、ヘンテコリンな装備が自分になされているのだ。

まず……腰に挿してあった一振りのセラミック製のソード。

今はランスの右手に握られており、彼の世界には無い素材が使われている。

そして……ランスの左腕には、全く理解不能な機械が装着されており、
延びたコードは頭に延びており、左目の視界がガラス越しに広がっている。

正直これは邪魔でならなく、捨ててしまおうと思ったが、夢なのであえて無視した。


「なんなんだ、全く……おいワーグ! 今は妙な夢なんて見せなくても良いんだぞ!」


……


…………


一方、リア・パラパラ・リーザスとマリス・アマリリス。

ランスと同じタイミングで意識を失ったので、当然彼女達も同じ夢を見ている。

上半身を起こしてネボけ顔のリアに、マリスは膝を折って屈み目線を合わせている。


「リア様……大丈夫ですか?」

「マリス、もう朝なのぉ?」

「いえ……どうやらワーグ殿の夢の中のようです」

「えぇっ!? な、なんなのここ……」


先に目を覚ましたマリスは、既にランスと同様、夢の中と判断した。

そのことを知らないリアは、周囲を見渡して当たり前の反応した。

この時点で、リアは寝る前だった為かドレスではなく、半袖の私服。

マリスはいつもと変わらない服装をしている。

当然、寝た時のままの服装であり、これが夢なのだと決定付ける理由でもある。

だが、マリスとリアの腰には見たことも無い機械が納められている。

その機械は全く見た事がないので使い方がわからず、無視することにした。

名称はハンドガン、デザートイーグルと言うが、今この武器の事に気付いていればどんなに楽だったであろうか。


「夢にしては出来過ぎていますが……」

「ダーリンはどうしたのかなぁ?」


こんな言動でも頭の回転が速いリアは、これが夢と認識する。

そして立ち上がると、ランスの姿を確認するが、彼の姿は無い。

よって何処に居るかと、探す為に歩き始めるのだが――――


≪バシュウウゥゥッ!!≫


『グオオォォォッ!!!!』

「……っ!?」

「きゃあああ! マリス、何よこの化け物!?」

「見たことも無いモンスターですが……」

「ワーグぅ!? こんな夢、洒落にならないわよぉ!?」


二人の前に、真っ黒いニワトリのような、巨大な生き物が出現した。

マリスでさえ名前がわからないが、その筈、これは"悪魔"なのだ。

一匹ではあるが、種族は邪龍・名前はコカトライス。

2メートルはある体格に、マリスは身構えてリアを庇うように立つ。

見るからに、コカトライスは二人を敵……いや餌として認識したようだからだ。


『ジャクニク、キョウショク!!』

「リア様、お下がりください!」

「はるまきが居ないから攻撃できないッ! マリス、やっつけて!!」

「わかりました、はあぁ! (まずは小手調べね……)神聖分解波ッ!!」


マリスが構えた直後に、襲い掛かってくるコカトライス。

対して、マリスは十八番の神魔法を唱えるため、両手を前に突き出した!

この魔法が決まれば、単純な力押しモンスターと推測されるコカトライスは、
動きが止まり、隙を見て逃走するか、別の魔法で止めを刺すつもりだった。

……だが、間違いなく魔法を唱えている筈であるのに、その魔法が出ない。


「神聖分解波!? 神聖分解波ッ!!」

『ゴアアァァァッ!!!!』

「そ、そんな……どうして出ないのッ!?」


≪――――ガブシュッ!!!!≫


「あぐ……っ!?」

「ま、マリス~~!!」


何度も意識を集中させ、魔法を発動させようとする。

だが、コカトライスには何の変化も無く、悪魔は素早く距離を詰めてくると、
クチバシを空け、マリスの左肩に噛み付いた!!

その噛み付き攻撃に、肩から血液が散布し、リアの視界を遮った。

この一撃から、マリスは激痛と共に思った。

これは夢ではない、現実の世界の出来事であるのだ……と。

そして……あたり一帯に、リアの悲鳴が木霊した。


≪ふふふ……このまま世界が統一されても面白くないからね……
 君達には少しだけ、試練を与えてみようかな……?
 丁度良く、その魔人に手を借りた事を、運が悪く思うんだね……≫




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