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第二部:プロローグ【大陸の三人】 [鬼畜召喚師ランス]

銀座編スタートです。




元の世界の大陸……時刻は午前10時。

"こっち"ではワーグの"夢操作"の翌日の朝だが、"あっち"では丁度、ランス達が新宿を出発した頃だ。

要するに、時間の流れが"東京"の方が何倍も早いようである。


……


…………


……"元の世界"の指揮官用大型テント。

その中にある、大きなつくりのベットに、ランス・リア・マリスが"川の字"になって横たわっている。

三人はただ静かに息をして寝ているようにしか見えないが、
声を掛けようが刺激を与えようが、まったく目を覚ます様子は無く、他の者達は戸惑うばかりだ。

だが他の者達といっても……ランス達3人以外の人影は5つだけ。


「王様、どうしちゃったんだろう……?」

「知るもんか……ワーグ! 本当に判らないのかッ?」


"小川 健太郎"が、聖刀日光を片手に、三人を見下ろして言う。

だが……誰にも答えられる筈も無く、同じく三人を見下ろしていたサテラが、
ベットに腰掛けているワーグに少々キツめに問い詰めた。
(ちなみに、シーザーはテントの外で待機中である。)

対して、ワーグは涙目になりながらラッシーに隠れるようにして、体を埋めながら言う。

尚 彼女はランス達が"この様な状況"になってから何もしていないワケでは無く、色々と手を尽くしていた。


「……ワーグ、ただ、おにいちゃんたちを、ねかせてあげたダケだもん……」

「だったら、どうしてランス達は目を覚まさないんだよッ! おかしいだろ!?」

「ふ、ふぇぇっ……わからないよぉ~っ」


既に半ベソだったのは前述の通りだが、涙を零してしまうワーグ。

実際は彼女が悪い訳では無いのだが、そう思われてもおかしくはない。

ワーグも本当の理由がわからないので、責任を感じてしまったのか、
ただ何を聞かれても"わからない"を繰り返すばかりだった。

そんな彼女の様子に同情してか、魔人姉妹のラ・ハウゼルが助け舟を出す。


「ちょっと、サテラ、ワーグを苛めないの」

「苛めてなんか無い!」

「でも……変だよねぇ、ワーグの"夢操作"が失敗するなんて、ここ400年以上見たことも無かったし」

「だったら、原因は何だって言うんだ!!」


続いてサイゼルもワーグの"夢操作"の記憶を思い出す。

彼女はサテラよりも1000年近く長く生きているが、ワーグの"夢操作"が失敗した事など聞いたことも無い。

今居るメンバーの中では日光が年長者だが、ワーグの事に関しては、この三人の魔人の方が詳しいだろう。

それ以前に、自分の事は自分が一番良く知っているワーグ本人が分からないのなら、
サテラ・ハウゼル・サイゼルにも分かるはずが無いのである。

よって暫くテントの中は静まり返っていたが、再度 健太郎が口を開く。


「う~ん……良くわからないけど、王様に"何か別の力"が働いてるんじゃないかな?」

「別のチカラぁ~?」

「姉さん、私もそう思う……それが何かはわからないけど」

「ワーグもわからないよぉ……」

「それじゃあ、このままじゃ部隊は動けないじゃないか! もう少しでケイブリスを倒せるって言うのにッ!
 こうなったら、ランス抜きで、サテラ達だけでケイブリスを倒しに……」

「何言ってるの、戦闘域ギリギリの兵力しか連れてきていないのよ?
 サテラが前衛にまわっても、踏み潰されるのがオチよ」

「あたしは直接やるなんてや~よ? ランスと健太郎が前衛やってくれるって言うから来たんだもん」

「くそっ……」


確かに、ランス部隊450名、健太郎部隊450名、そしてサテラと魔人姉妹合わせて100名。

無駄な命を使わない為、合計1000名程度の兵力しか連れて来ていない。

なのにランス抜きでは、ケイブリスを討ち取るのには不安が残る。

また……今まで軍を動かしてきたのは、全てランスとマリスの指示による軍事移動"だけ"だった。

即席でメガラスやガルティアを前衛にまわす方法も可能といえば可能なのだが、
突然他の者が率先して軍を動かしてしまっては、混乱を招く恐れがある。


「とにかく、少し様子を見たほうが良いのかな……」

「そうですね、まだ焦るのは早いと思います」

「じゃあ、王様達が出撃を見送るって言ってたって事にして……」

「そうですね、三人のトップが揃ってダウンなんて知れたら、軍全体の士気も落ちてしまいそうですし……」

「ここは、今居る人たちだけの秘密って事にしておきましょうか?」

「それが良いかもしれませんね」


ランス・リア・マリスが目を覚まさないのは、
此処に居る健太郎・魔人姉妹・サテラ・日光・そしてワーグしか知らない。

始めにワーグが優しいハウゼルに相談しに行き、ハウゼルが各部隊の隊長をこのテントに呼び寄せ、今に至る。


「……こらっ、健太郎、ハウゼル! 勝手に話を進めるなッ!」

「まぁ、良いんじゃないの? 私達が有利な事には変わらない事だし」

「サイゼルッ!?」

「それじゃあ、ワーグ。 ランス王の事、何か調べてわかったら、教えてね」

「う、うんっ。おにいちゃんたちと、いっしょに いるよ」

「それじゃ、姉さん、行きましょう」

「えっ、どこによっ?」

「ランス王の正規兵の方達に、"待機を続けるように"と言いに行きましょう」

「え~っ、仕方ないなァ……」

「あっ……それじゃあ僕の部隊の兵にも、もう暫く出撃を見合わせるように言っておきます」


≪バサッ……≫


話が纏まると、テントを出てゆくサイゼル姉妹。そして健太郎も彼女ら二人に続いた。

サテラと同じく、この三人も早くケイブリスを倒したい気持ちはあるが、
ランスを差し置いてそういう気にはなれず、彼がリーザスにとって大きな存在だと痛感する。

また何だかんだで、健太郎も魔人姉妹も、ランスには大きな借りがあるのだ。

特に健太郎は、律儀にも出口で振り返って一礼をして出てゆくあたり、
ランス達三人の現状を重く受けとめているのが伺えた。

……こうして、テントには、サテラとワーグだけが取り残される。

室内に響くのは、植物状態の三人の、微かな呼吸だけ。

そんな中 部下がガーディアンなので命令の必要の無いサテラは、
ゆっくりとベットに近付くと、膝を乗せてそれを僅かに軋ませる。

直後、静かに眠るランスを悲しそうな表情で見下ろしながら……嘆いた。


≪ギシッ……≫


「ワーグ、ランスは……ちゃんと目を覚ますよね?」

「うん……ワーグはしんじてるよ、きっと……いまは、ゆめのなかで、がんばってるんだとおもう……」

「ランス……早く起きろよ、バカッ……」


既にランスと肉体関係に有るサテラは、彼が大好き。だが彼女が好きなのは何時もの姿のランスなのだ。

故に今の様な彼を見ると悲しくなってくるのか、自然とランスの頬には、小さな雫が落ちていた。

だが、この冷たい感覚は、彼に伝わる事は無かった。




……何故なら彼の意識は……




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