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第二部:第01話【荒野】 [鬼畜召喚師ランス]

ランス・リア・マリスは2体の仲魔と共に六本木を目指していた。




……7日目、午後4時。

新宿を出発し、六本木を目指す事にしたランス達。

街から離れているので遭遇する悪魔は以前より多いのだが、
ライト悪魔2体を加えた事により、かなり戦闘が楽になったと言えた。

かといって、5回に1回程の割合で、強めの(Lv30↑)悪魔が出現する。


「ダーリンッ、来るよぉ!」


≪――――ドゴォォォンッ!!≫


『グルオオォォッ!!』

『ゴガアアァァッ!!』


『……ッ!? ご主人様、この悪魔は!?』

「(ピピピッ)こいつは"魔獣タムズ"だ! レベルが足りん、両方ともやっちまえ!!」

『……良し!!』


爆音と共に現れたのは、二体の"魔獣タムズ"。

高さ2メートル、全長3メートル……巨大なサソリのような悪魔だ。

基本的に"魔獣"の属性はNEUTRAL-NEUTRALだが、NEUTRAL悪魔と言えど、
このように頭が悪い悪魔は、自分よりも"レベル"で劣る相手と言うだけで、何も考えずに襲い掛かってくる。

……つまり、魔法や技などの力量まで見極める知能が無いのだ。

それを先程までの戦いから理解していたランスは、武器を抜きながら叫んだ。


「マリス!!」

「はいッ」


≪チャキッ……ズダンッ、ズダァンッ!!≫


『グォアッ!?』

「!? 駄目です、硬すぎて"ガン"は効果がありません!」

「それじゃあ、リアに任せてっ! ……マハ・ジオ!!」


≪シュバババババ……ッ!!≫


『グオオォォッ!?』


――――主な戦法は、短期決着。

いかに最小限に被害を抑えて戦うかがこの世界の基本だ。

その常用手段として行っているのが、真っ先にマリスが敵悪魔に遠距離から"神経弾"を発砲。

……だが、それが硬い皮で防がれたと分かると、彼女はスコープから片目を素早く離し、状況を報告。

それを聞いて既に魔法をスタンバっていたリアが範囲電撃魔法を二体に放つ。

神経弾で動きが鈍くなれば使わないが、そうでなければ第二派として唱えなくてはならないのだ。


「ゆけぇい! エンジェルナイト、アリアンロッド!!」

『やああぁぁッ!!』

『はああぁぁっ!!』


≪ズズシュゥ……ッ!!≫


リアの魔法で感電して怯んだ直後、片方のタムズに二体の仲魔が切り込み、
エンジェルナイトは右のハサミを、アリアンロッドは左のハサミを切り落とした。

リアの"マハ・ジオ"は、ダメージ目的でなく、硬直を狙った牽制だったのだ。

そして、ランスも時間差で勢い欲突っ込み――――


『ギャアアアァァァッ!!!!』


≪ドサドサッ!!≫


「五月蝿ぇサソリだ! 黙らせてやるぜ!!」


≪ガシュ……ッ!!≫


『ガフ……ッ!!』


両腕を失って断末魔を上げるタムズの顔面にプラズマソードを深く突き刺し、一体を絶命させた。

これにより、マリスの発砲から10秒足らずで片方のタムズが倒されたのだ。

だが、もう片方のタムズは感電状態から立ち直っており、前衛三人にいきり立って襲い掛かった!!

ここからは、作戦は済んだので、正攻法で撃退しなくてはならない。

よってランス、エンジェルナイト、アリアンロッドは、尻尾を散開して回避する。


≪――――ブゥンッ!!≫


「おわ!? 危ねぇっ!!」

『その尻尾は危険そうです、注意してください!!』

『フンッ、今度は尻尾を切り落としてやるッ』


……


…………


『……仕留めれたようです』

「あの"魔獣"は麻痺効果の攻撃をしてくるようですね」

「痛てててっ……し、しびれる……」

『大丈夫か? ランス。直ぐ治す、パララディ!』


≪パアアァァ……≫


「むむっ? お~……効いて来たな」

「ダーリン、油断は禁物だよぉ?」

「うるさいうるさい、だが……もうコイツの事は、"デビルアナライズ"でお見通しになったからな。
 例え今度出てきても、一瞬であの世に送ってくれるわ」

『ついでに回復もしておこう』

「うむ、良い心掛けだ! アリアンロッド+2点!」

『あぁ~っ、ずるいです!!』


……


…………


戦闘後はしっかり回復もしておき、再び歩き始めたランス一行。

ひたすら東にまっすぐ進んでいるのだが、17時半頃 日が落ちてくると、
進行を遮る川越しに大きな"穴"がランス達の視界に入ってきた。

直径数キロに及ぶ、巨大なクレーター……"爆心地"の一つである。

何百メートルか距離があるので深さが見えないが、
はじめてそれを見た3人は、爆心地の中心を眺めながら口々にする。


「あれが、話で聞いた爆心地ですか……」

「なんだありゃ、"ピカ"どころの騒ぎじゃないぞ」

「すごぉい……」


ゼスで多くの命を奪った"ピカ"でさえ、範囲内を消滅させたものの、ここまで地面を抉(えぐ)ってはいない。

この大破壊がミサイルによるものだとランス達は知らないので、
何がどのようにしてこんな物が何個も落ちてきたのか、想像もつかない。

かといって、判らない事を深く考えても仕方ないので、ランスはくるりと後ろに振り返って4名に言う。


「とりあえず、東に進むのはこれで行き止まりだな」

「そうですね、後は同じような距離を南下すれば六本木に到着する筈です」

「ダーリン、どうするのぉ?」

「そろそろ暗くなるだろうしなぁ……水もあるし、一晩明かすぞ」

『承知しました』

『わかった』


……


…………


河川敷の岩陰で焚き火をし、そこで朝まで様子を見る事にしたランス達。

何日もの遠出ではないのでキャンプ道具は殆ど無いのだが、それでも十分なのは さて置き。

一通りの準備が終った頃には、既に空は黒く染まっていた。

日夜構わず、青姦は大好きなランスだが、流石にこの状況ではヤる気にはならない。


「すぅ、すぅぅ……」

「(リア様暖かい、何だか幸せ……)」

「よ~し、俺様も疲れたから寝るぞ。エンジェルナイトとアリアンロッドは交代で見張りをしてくれ」

『了解ですっ!』

『あぁ』

「マリス、お前もさっさと寝ろよ」

「はい、お気遣い有難う御座います」


焚き火の炎越しに、ランスは岩に背を預けながら、夜襲の事を考えて仲魔に見張りをするように指示する。

一方、リアは最初は元気だったものの、やはり疲労が溜まったかマリスに体を預けながら寝てしまっていた。

そしてエンジェルナイトとアリアンロッドは早速、ボソボソと小声で見張りの打ち合わせを行っている。

ランスは、その二体の悪魔の話す様子と、ポ~っとリアの寝顔を至近距離から眺めるマリスを横目に、
疲れを癒すために瞳を閉じると、そのままの姿勢で寝息を立てだした。

7日目の夜……早くも一週間が終了する。


……


…………


『…………ス……』


「ん……っ?」


『ラン……ス……さま……』


「誰だ、誰の声だ?」


『……てん、ま……』


「何だぁ? 聞こえんぞ!」


『天魔……を…………』


「てんま……もしかして種族の"天魔"か?」


『……そうすれ、ば……私も……そちら……に……』


「おいッ、どう言う事だぁ~~ッ!?」


≪だぁ~~~、だぁ~~、だぁ~……≫


……


…………


「だあああぁぁぁっ!!」


≪――――がばっ!!≫


「うきゃあっ!?」


……8日目の朝。

何時の間にか岩に背を預けた状態からズルズルと落ち、
右肩を地面につけて寝ながら朝を迎えたランス。

そんな彼に目覚めのキッスをしようと思い、"ん~"っと唇を近づけていたリア。

だが……キスの直前、物凄い勢いでランスが起き上がったので、
リアは素っ頓狂な悲鳴を上げて身構え、その場で静止する。

対して寝ぼけながらもランスは、彼女を怪訝そうな目で見ながら言う。


「? 何やってんだぁ、お前」

「な、何でもないもぉん……」

「ランスさん、お早う御座います」

「おはようだ。マリス……ところでお前ら、悪魔はどうだったんだ?」

『はい、一晩中見張っていましたが……』

『特に襲ってきた悪魔は居なかったぞ』

「そうかそうか、ご苦労だったな、お前ら+2点だ」

「ダーリぃン、リアにも点数頂戴よぉ」

「嫌だね。お前にサービスすると疲れる」

「ぷ……ぷぅぅ!!」


……


…………


……十数分後。

マリス(とちょっとだけリア)がキャンプの後片付けをする中、
ランスは岩に背を預けたまま、ハンドヘルドコンピュータを弄っている。

彼はエンジェルナイトとアリアンロッドを仲魔にした事により、多少満足感を得てしまって、
昨日は新しい悪魔を仲魔にする事を、そんなに深く考えていなかったのである。

その為、どの種族を仲魔にしてどのライト系種族を作るか考えている。

……とはいえ"作る種族"は、既にランスは決めていた。


「(どれどれ"天魔"を作るのに必要な悪魔は……と)」


≪女神×堕天使 天使×龍神 鬼神×龍神……≫


「(ゲッ、マジかよ? 難しい種族ではないか……)」


それは"天魔"であり、ランスは合体検索を急いだ。

しかし、難易度はそこそこ高いようで、ランスは顔を顰(しか)める。

一番手っ取り早いのは女神と堕天使を合体に使う事なのだが、
ランスは川の麓(ふもと)でエンジェルナイトと訓練している、アリアンロッドを遠めに、心の中で考える。


「(あいつはまだまだ戦力になるしなぁ……やめだやめだ、他の"ライト悪魔"を作る方が楽だぜ)」


≪――――プツン≫


「(……とりあえず、何でも良いから新しい悪魔を仲魔にしてみるか。
 そんでまた合体検索でもして、ライト悪魔を狙えば良いのだ。がははははは、さすが俺様、天才)」


女神はそんなに合体の難易度が高い訳ではないが、
合体材料としても非常に役立つ悪魔なので、利用価値が高いのだ。

そこまでランスには判らないが、アリアンロッドを手放すのは勿体無いので、
一旦合体検索を閉じると、"適当"に悪魔を仲魔にしようと考える。

女性悪魔が欲しいところだが、まだ二体の仲魔には飽きていないし、
何となく、"新しく自分が作る仲魔"も女性悪魔になる可能性もあるので、
(実際そうなのだが)ひとまず今は深く考えない事にした。

いちいち"特定の種族"を仲魔にする事を考えても、
余程運が良くない限り、"狙った種族"に遭遇し、仲魔にする事は難しいのだ。

六本木に向かう"ついで"の悪魔探しなら、尚更だ。

……そう考えれば、女神を狙って、一日でレシピである龍王と鬼女を仲魔に出来たのは、運が良かった。

そんな訳で"要は一体目はテキトーだ"と考えながらランスは立ち上がり、4人を集合させた。


……


…………


「皆の者、今日は一気に南下して六本木を目指すぞ」

「荒野さえ抜けてしまえば、出現する悪魔は強くなくなるそうです」

「今日も頑張らないとね~」

「あとだな……今日は仲魔も探すぞ、俺様の下僕を増やすのだ」

『狙う種族はあるのですか? 妖精とか魔獣とか』

「それは特に決めてないぞ。適当だ、適当でいい!」

『ふっ、貴方らしいな』

「(しっかし、あの"声"はなんだったんだろうなぁ?)」


戦いでの作戦は昨日と変わらないが、ランスは今日は全ての悪魔を叩かずに、
敵悪魔を仲魔に入れる事も視野に入れると告げた。

それに頷く一同だったが、ランスは夢の中で聞いた"声"の事を考える。

今でもハッキリ覚えているので、恐らく……"天魔"を作成するのは、出来るだけ早い方が良いだろう。

……だが、女神を材料にするのは勿体無いし、アルケニーの事も有ったしで、
ランスは頭を掻きながら目的地に向かって歩き始めるのだった。

こうして8日目……二週間目が始まろうとしていた。




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