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第一部:第04話【マリスの受難】 [鬼畜召喚師ランス]



ランスとリアは館から戻り、回復道場の一室に顔を出した。

すると、その部屋のベットでは、マリスが上半身を起こしており、
回復道場の巫女になにやら行動を押し留められていた。

上半身包帯だけの彼女は、上体だけを起こして何やら言っているようだが……?


「ちょっといけませんよ、まだ歩いては」

「ここでお世話になった事は感謝しています、ですが私は直ぐにでも御二方の後を追わなければ……」

「マリスーただいまー」

「り、リア様!?」

「何を焦ってるかは知らんが、その必要は無いぞ?」


治療のあと、30分程度で目を覚ました彼女だったが、ランスとリアの姿が無いので、心配していたようだ。

回復道場の主は他の部屋で別のことをしており、ランスが仕事を請け負いに行った事は言っていなかったのだ。

さてランスは心の中で、マリスの心配で焦っていた姿に笑うと言った。


「隣のじいさんにな、ちょっくら仕事を貰って来た」

「し、仕事……ですか?」

「うん、なんだかすっごいお仕事だよ~」


この時点で、"すっごいお仕事"の内容が分かるはずはない。

先程教えられた事を話すのは非常に面倒臭いが、彼女にも知ってもらった方が確実にプラスになるので、
ランスは得意気に悪魔合体についての情報をマリスに言い与えた。

されど相当適当……故にところどころで、暗記していたリアがフォローしていた事は言うまでも無い。


……


…………


「成る程……その機械、ハンドヘルド・コンピュータでそんな事が」

「たまげただろ? 女の子モンスターは一匹つれてくだけだったが、
 "こいつ"の中には何匹も"悪魔"ってのが入るらしいぞ?」

「ですが、何故そんな便利な物がランス王の手にあったのでしょうか?」

「それは勿論、俺様が偉大だからだ!
 これは選ばれた者だけが手にする事が出来る"アームターミナル"なのだ」

「ふふ、案外間違いではなさそうですね」

「くぅ、くぅ……」


数十分後、説明は終わり、部屋で起きているのはランスとマリスだけ。

説明が終ると、リアはソファーに体を預けて寝てしまっていた。

口では元気元気といっていたが無理も無い。

元の世界であのまま寝ていられれば、本当ならとっくに夢の中だったのだ。

だが……ここは回復道場、宿屋ではない。

それなのにリアが寝ているのは、道場の主に泊めて貰う許可を得たから。

実はこの道場……他の回復施設のメシア教会とガイア神殿と比べると、
値段がとても高いので、あまり儲かっていないのだ。(メシアとガイアが安過ぎるとも言う)

そんな中、ランスというサマナーの紹介料5000マッカを貰い、
機嫌を良くした主は、今の所一泊だけではあるが、宿泊を許可したのである。

マリスは勿論、ランスもかなり疲れていたので、これは好都合だ。


「まぁ、今日のところは休むとするか」

「そうですね、"こっち"の時計は21時らしいですし」


勿論、こちらの世界にもこちらの"時間"がある。

幸いランスたちが新宿に到着してから暗くなり始めたようだ。

かといって、まだ大人が寝るのは早い時間だが、今回は止むを得ない。

故に巫女が親切にもリアに毛布を掛けた上、布団を敷いてくれたので、それに入ろうとするのだったが……


「あの……ランス王」

「あん?」

「リア様と……私を救っていただいて、本当に有難う御座います」

「おう、特にお前の治療には大金が掛かったんだ、一生感謝しろよ?」

「はい……」

「んん? なんだなんだ~、マリスらしく無い。お前はいつもの様に、スかした顔してりゃ~良いと言うのに!」

「ふふ、そうですね、"こっちの世界"では直ぐ慣れないと思いますが」

「ま、お前になら大丈夫だろうが……とにかく、元の世界には必ず帰ってやる。
 "あっち"には世界中の美女が、俺様の帰還を待ってるんだからな」


≪ギシッ……≫


今回はランスとリアの足を引っ張った事に責任を感じたか、
ランスを呼び止め、彼を見上げ、頭を下げるマリス。

この礼は別として、今の彼女の表情はあまり見る事の出来ないものだったので、
ランスは彼なりに労いの言葉をかけてあげる。

すると、彼女は微笑むが、ランスは"へっ"と鼻で笑ってあしらい、
マリスのベットに進み方膝を軋ませると、おもむろにマリスの右乳房を、包帯の上から掴んだ。


≪もみもみ≫


「……ッ……ランス王?」

「うむうむ、良いサイズだ、左乳も見た目は大丈夫そうだな」

「は、はぁ」

「俺様は寛大だからな、今回はこれでチャラにしてやる」


左胸も揉んでみようと思ったが、傷の事もあるし、止める事にしたようだ。

自分の目が覚めており、マリスもこんな状況でなければ、
リアもバクスイしているし襲っただろうが、病み上がりの女を抱く気にはならない。

よって、ランスは軽い(彼にとっては)セクハラをやってのけると、
電気を消し、今度こそ布団の中に潜ってゆくのだった。

すると……驚くほど早く、彼のだらしのない寝息が部屋の中に響いた。

マリスは、その鼾(いびき)を聴きながら、同じよう眠りへと落ちていった。


「(悪魔召喚? 悪魔合体? わからない事ばかりね……
 いっその事、夢になってくれれば全て丸く収まると言うのに)」

「……ぐぅ、ぐがぁ、ぐぅぐぅ……」

「(でも、夢であっても覚めないで欲しいと思うのは何故なのかしら……)」


……


…………


……翌日。


一晩で体調が回復した三人は、新宿地下街で情報収集を行っていた。

人に声を掛けるのは(殆どが)マリスと(ほんの少し)リアだけで、
ランスは歩きながら、ハンドヘルド・コンピュータをひたすら弄っていた。

左目に広がる小型液晶を見ながら、キーボードを叩きつつ悪戦苦闘をしている。

正直……傍から見れば変な男にしか見えなくも無い。


「ぐぁ~もう、悪魔召喚とかはともかく、オートマッピングとかデビルアナライズとか、わけわからん!!」

「だ、ダ~リン頑張って~!」

「くそ、なんだかマリスに使わせたほうがいい気もしてきたが、何で俺様にしか使えないんだ、こいつは……」

「ランス王、リア様、今度は此処に入ってみましょう」

「んん~? ああ、行き先はお前に任せる」


悪魔召喚プログラムは、人を選んでいる。

何故か、ランス以外の人間が使おうとしても、反応しないのだ。

よって、只の機械ではなく、特殊な力が働いているのは明白だ。

悪魔が召喚できると言うだけで、既に特殊だけでは済まされない奇想天外な機能だが。


「……つい最近だがな、六本木の"ネビロス"が倒されたとかで、
 銀座方面から"新宿"や"渋谷"に人が流れてきたんだぜ」

「そういやぁ、前にも"ここ"を悪魔の力で支配していた"オザワ"が、
 どこかのデビルサマナーに殺されたらしいぜ? ……ヒック」

「そうなのですか」


一方、情報収集をしているマリス。

彼女は柄の悪そうなデビルバスターに話を聞いていたが、片方の男がマリスの肩に手を掛けた。

場所が情報収集の基本である酒場なので、やや酔っ払っているようだ。


「それより、姉ちゃん美人だなぁ、俺とちょっと付き合ってくれよぉ」

「お断りします」

「なんだとォ? もっと色々と話してやるからよ、こっち来いよ! うへへへへっ」


酔っ払いに対して、マリスは冷たい表情で言い放つ。

彼女は気付かないが、他の新宿の女性と比べてかなりの美人なので、
声を掛けられるのは一回や二回ではなかった。

マリスの肩に手を置いた男が酔っ払っていなかろうと、声を掛けたはずだ。

だが……彼女にナンパなどしてしまったら、結果は見えている。


≪――――ばこっ!!!!≫


「ぐわっ!!」

「て、てめぇ! 何しやがる!!」

「それはこっちの台詞だろうが、チンカスが!! 勝手に俺様の女に、汚い手で触りやがってッ!!」

「なんだとぉ、殺されてぇか!?」

「げッ!? お、おい……コイツは止めたほうが良いんじゃないか?」


リアをあしらいながらハンドヘルドコンピュータと格闘していたランスが、
勢いよく走ってくると酔っ払いの一人を殴り飛ばしたのだ。

だが、酔っ払いはデビルバスターなので当然 黙ってはいない。

体格が良いので熟練者であれば、ランスよりも強い可能性もあるのだ。

よって殴られた男は咄嗟に剣を抜こうとするが、殴られなかったほうのデビルバスターが、
何かに気付いたか、相方の肩に手を当てて止めた。


「あァ? なんでだよ!?」

「こいつ、デビルサマナーだぜ? あ、悪魔なんて呼ばれたらかないっこねえよ」

「そうとも、サマナー様の女をナンパしやがったんだ、覚悟は出来てるんだろうなぁ?」

「えっ!? い、いや……悪かったよ」

「勘弁してくれ……この通りだ」

「だったら"誠意"を見せてみやがれ! 俺様は寛大だからな、それで許してやるぞ!」

「わ、わかった」


相方が殴られた音で、良い意味で頭が回転し、ランスがサマナーだと気付いたようだ。

その言葉で、殴られたデビルバスターも酒が抜け、
ランスの態度もあってか、滅茶苦茶 強いヤツだと勘違いし、素直に謝ってしまっていた。

しかも、ランスに"悪かった"とマッカまで払っており、それほど"悪魔召喚師"は優れた職業であり、憧れなのだ。

そんな一部始終を、マリスは少し離れた場所で見ており、苦笑しながら思う。


「(これで何回目かしら? ランス王がこうやってお金をせしめるの)」

「ほぉ、なかなか羽振りが良いじゃねぇか!」

「そ、それじゃ……俺達はこのへんで!」

「(でも――――)」


ランスはこの方法で既に1000マッカ程稼いでいた。

だがマリスは情報だけを聞き出すつもりで他意は無いのだが、既にパターンになっている。

ランスは二人のデビルバスターを酒場の外に蹴り出すが、
逃げるように去っていた二人の酔っ払いは……決定的なことに気付いていない。


「ぶぅ、マリスばっかずるい……リアも情報聞く~!」

「お前の色気じゃ無理無理だ! がははははは!」

「("あの中"には、まだ悪魔が一匹も入っていないなんて、夢にも思っていないでしょうね……)」




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